“護る” 2022
“TRENCH COAT”の歴史を辿った。
塹壕を意味する”TRENCH”。
トレンチ・コートは塹壕戦が繰り広げられた第一次世界大戦時に作られたアイテムとされている。第一次世界大戦は急速な新兵器の開発により、死傷者が激増し、塹壕下で 戦うことを余儀なくされた。英国政府が厳しい環境下にある兵士を守るため、バーバリーに作らせたものが”TRENCH”COAT”なのだ。
ここでWW1やトレンチ・コートの歴史について語るのは専門家に任せて本題に戻ろう。
簡単に言うならば TRENCH COAT=過酷な状況下で戦う兵士のために作られたもの。
色々と書物を読み漁っている内に兵士たちが”TRENCH”COAT”について書き記した手紙に出会った。そこにはこの一着に対する感謝の言葉が記されていた。
そして想像した。
“TRENCH”COAT”というものは兵士にとってどんな存在だったのだろうか、と。
此処にAKI’s”TRENCH”COAT”を作るヒントがあるようにも感じた。
伝統的な”TRENCH”COAT”を頭に思い浮かべてみると…
兵士が機関銃を打つ際の衝撃をやわらげるためのガン・フラップ。
肩から荷が落ちないよう留めるために添えられたエポレット。エポレットは戦時中、負傷した兵士を引っ張り上げるための持ち手としても使われたそうだ。
雨の浸透を防ぐアンブレラヨーク…etc…
身体への負担を軽減する工夫が凝らされたディテールたちで満たされていることがわかる。
そうか…
頭の中で想像と妄想を繰り返す中でひとつの考えへと辿りついた。
決して心が休まる瞬間がなかったあの時代。
“TRENCH”COAT”は雨風を凌ぐ機能性のあるものだけではなく、戦場へと赴く兵士にとって心強い味方のような役割を担っていたのではないかと。
…”TRENCH”COAT”は心を護る存在だった。そう想像したのだ。
戦争のない世界を願う今。自分が描く”TRENCH”COAT”の形が見えた。
“護る”というキーワードを引き継ぎ、Man Madeの香りを纏わせた一着だ。
人間のパワーは他者を傷つけることに使われるのではなく、
ポジティブな人間力を感じる一着に仕上げたいと思った。
まず戦時中、機能的であったとされるディテールを全て取り払うことにした。
草むらに隠れる必要もなく、自由に堂々と歩ける現代に着る一着だからこそ
敢えてミリタリーカラーとされるカーキ2色を使い、
どの角度から見ても目立つ切り替えデザインを入れた。
前身頃には歩く度にぴらぴらと揺れる葉っぱを。
そして、全てにおいて左右非対称にし、自由さを表現した。
平和な時代だからこそ着れるものを。
袖を通した時に何か心強い鎧のようなものを纏った気持ちになるものを。
本来の”TRENCH”COAT”が持つ意味が必要とされない世界が来ることを
切に願ってここにAKI’S TRENCH COATを。